Opening gambit

狩野宏明

2019年制作
33.3×33.3㎝ 油彩、綿布、パネル

作家コメント

本作では、西洋絵画における《受胎告知》の図像から着想を得ました。

 私はある日、15世紀イタリアの画家フランチェスコ・デル・コッサの《受胎告知》を画集で眺めていた時、大天使ガブリエルの身振りが、何かのボタンを押しているように見え、ガブリエルのその行為をきっかけに、画中に描かれた聖母マリアが大爆発を起こす、というヴィジョンの着想を得ました。

 この単純な連想から生まれた《ボタンを押すガブリエル》と《爆発するマリア》のヴィジョンは、テロや紛争が絶えない現代においては、破壊や暴力を容易に想起させる。しかし私が思い描いたのはむしろ、創造的で生命力を持った爆発である。この世界に存在する全ての生命が協働しあい、常に変化し新たな世界を創造し続けるための起爆力としてのヴィジョンを描けないかと考えた。

 私が連想した《ボタンを押すガブリエル》のヴィジョンは、現実世界における「選択」と「賭け」を象徴しています。私たちは普段、一瞬一瞬で幾多の選択決定を行い、無数の可能世界の中から、この唯一の不可逆的で具象的な世界を生きています。「選択」という行為には、常に予測不能で不確定な事柄へ向かう「賭け」が含まれており、この「選択」と「賭け」の要素が、私たちの生にセットされていることで、「こうであるかもしれない未来の可能性」や「こうであったかもしれない過去の可能性」が豊かに広がる要因になっています。唯一の現実を生み出すと同時に、無数の可能世界を生み出す分岐点となるこの「選択」と「賭け」を肯定的に表現したいと考えました。

 私は《ボタンを押すガブリエル》と《爆発するマリア》を主なモチーフとした本展の作品群において、様々な課題を抱えながらも日々の「選択」と「賭け」によって、無数の可能世界の中からこの唯一の現実世界を協働して作り上げている生命の躍動と連関を表すことを試みていています。