黄金の時間

狩野宏明

2025年制作
油彩、アクリル、金箔 ミューグラウンド、パネル/26.5×16.5㎝/2025年

作家コメント

掛け時計をモチーフとして、⾃身の感情や世界の神秘と向き合う時間を持つことの 重要性 をテーマに描いた。

フランス旅⾏で装飾芸術美術館とパリ⼯芸博物館を訪れた際、近代に製作された掛 け時計 や置き時計をたくさん⾒ることができた。
それらの時計は、時間を測る機能的な美だけでなく、優美な装飾が施された調度品 としての魅⼒が大きかった。
⽬まぐるしく進む⽇々の中で 創作活動を⾏う際には、 時間の感覚を変化させることが必要であると感じていたため、過去 の時計をモチー フに現代における時間を主題とした作品を描きたいと思った。

タイトルの《⻩金の時間》と《夜の時計は12時》は、1980年代から90年代にかけて 活躍した女性バンドZELDAの楽曲から引⽤した。コンピュータの普及が進んだ80年 代〜90年代は、チクタクと動く機械やデジタルによる均⼀に分割された時間や世界 認識を、⼈間の精 神や身体構造と重ね合わせたり対⽐させたりする「時計仕掛け」 の⽐喩が新鮮に機能してい たと⾔える。

それに対してイギリスの時計職⼈レベッカ・ストラザースは、現代のインターネッ トの世界 では、よりグローバルな時計が必要となり、100万分の1秒単位の正確さが 求められるよう になったと指摘している。
ナノ秒単位での正確さが求められる現代の時計は、絶え間なく⾼ 速で振動するうな りとなり、従来のチクタクと判別可能な音を伴う時間経過とは異なっている。
ネット社会に⽣きる私たちはしばしば、このより正確で⾼速な時計仕掛けに侵⾷されて いるように感じてしまうこともある。
レベッカ・ストラザースは「私には、「カチ」「カチ」というのんびりとした音を 伴っていた ⽅が、時間にどこか広がりがあるように思える」と述べている。
私も彼女の⾔葉に共感する。
時計のない世界を想像することはもはや難しいが、せめてチクタク音がする時計の 世界に 身を置き、⾃身の感情や世界の神秘とゆっくり向き合う時間を創出したいと思い、本作を描いた。